竹村実際に4DXのプロセスが進行するなかで、変化を感じるのはやはりコーチ役の方ですか、あるいは、現場スタッフの方ですか?
山室コーチはもともと意識が高かったので、そこまで大きな変化はないと思います。一番大きく変化が見えているのは現場です。現場の竜巻の中で新たなチャレンジをする、1週間に1回必ず振り返りがある、スコアボードを付けて今週の活動を決める。このルーティンがある程度浸透してきていますので、コミュニケーションの質が変わったと思います。具体的には、目標に対しての振り返りが1週間に1回必ずあるわけです。そこで、「今はこういう状況だから、次はこういうふうにやっていこう」という会話が繰り返されていく。今まであれば責任者もしくは部門長レベルでしか考えなかったことが、一般スタッフもそこを理解するようになったのです。まずそこで大きな変化が見られました。これはすごいことだと思います。私たちの業界ではなかなかありません。みんなで目標を共有して達成しようというスタッフはすごく少ないのです。
会話の内容も「お客様にとってはもう少しこうしたほうがいいよ」「お客様はきっとこういうことを望んでいるから、こういうことをやってみよう」など、主体的に自ら発するようになってきました。1週間のスコアボードをつけ、行動計画を立てるうえで、そういったことが始まっています。これも大きな変化です。
竹村以前「実行の4つの規律」の半年のプロセスが終わった会社にお邪魔して、振り返りということで社長さんにお話しさせていただいたことがありましたが、やはり似たようなことをおっしゃっていました。その会社では、WIGとして「収益」を挙げました。今までは、収益についてはあまり考えることがなく、スタッフは良かれと思ったことをやっていたそうです。しかし、ここ数ヵ月でだいぶ変わって、スタッフにあまり言わなくても、収益性や自分たちのビジネスが、今、どうなのかということを、スタッフが自分で考えられるようになってきた。「4つの規律」の副次的なものとして、まったく異なる文化になったとご評価いただくことができました。
山室まさしく同じような流れで動いていると思います。
竹村遅行指標としてのWIG(最重要目標)の達成状況はいかがでしょうか。
山室WIGとして設定した「生きがい支援」では面白いことが始まっています。グループ全体で「生きがい支援」を目標として、そこから各施設独自で取り組みを進めているのですが、実際に利用しているお客様が自ら活動したくなるような環境になってきました。現場でスタッフがやっていることを一つずつ整理して、お客様にできることをお願いするということです。いきなり大きなことをやるよりも、身近なところで継続的にできることです。仕事をしていただいたら、お金は渡せないのでポイントを付与して、それを貯めて物に交換できたり、何かことに使えるような、お金と同じような価値をポイントに与えるという仕組みにしています。ポイントなのでお客様もスコアボードをつけます。「今日はこれだけ頑張って、ポイントがこれだけ貯まった」という会話が、お客様同士の会話にあるのです。将来的には、例えばウェブデザインをやっていた方であれば、脳梗塞等で麻痺になってしまった方でも、名刺やパンフレットのデザインをやってもらおうと思っています。
竹村介護業界では、奉仕をしたい、お仕えをしたい、それをすることで自分自身の満足感もあります。それはややもすると何でもやってあげたいとなってしまいがちです。ところが、今のお話のように生きがいとなると、入居者の方々がどうやったら自立をしていくことができるのかと考えるようになります。これまでは、サポートしすぎることで、やってもらうのが当たり前のような状況を作ってしまうのがありがちな姿でした。ビジネス的な言い方をすると、お客様をどれだけエンパワーするのか。彼らが自分たちのリーダーシップを発揮して、自分たちの歩みたい人生を歩む手助けをする。そこにチャレンジしていきましょうということですね。
山室もともと何をやったらいいかわからなかったのです。答えがあるようでなかった。例えば、今、自立支援介護は国も進めているところですが、そもそも自立支援介護では何をするのかという話になったとき、元気にすることが自立支援介護ではありません。身体が元気になること以外に、一人で暮らしていけるような環境の整備をしていくことも自立支援介護かもしれません。自立って難しいですよね。生活が自立なのか、心が自立しているのか、いろいろなところで自立支援介護とは何なのかが少しずつずれている気がするのです。そこを目指したとしても明確に何をやったらいいのかわからなくなってしまう。それよりも、残された人生をどのように生きていきたいかに基づいて、その人がやりたいこと、できることを一つでも多く実現していく。もしかしたらそれを自立支援介護といっているのかもしれません。
竹村『第8の習慣』の「エマ・ブランドン」の話そのものです。それがインスパイアされたのですね。
*「第8の習慣」研修プログラムで登場する映像作品。看護師「エマ・ブランドン」が傾聴し理解することで心療内科の患者さんの自立を促すストーリー。
山室エマの話が頭のなかにずっと残っていたのだと思います。そのときは忘れていたのですが、映像を見たときにフラッシュバックのように蘇りました。あのときのお客さん自身が活躍している姿もそうですし、リーダーシップ像というものもそこで学んだのだと思います。
竹村お客様が満足するということのために、メンバーも自分たちでどうするのかを考えていく。そこに対してのリーダーシップの取り方というものもあります。メンバーに対するエンパワーメントと、スタッフたちのお客様に対するエンパワーメントというところをイメージとしてお持ちになっている。それが本質的なリーダーとしての喜びであり、スタッフとしての喜びであり、それからお客様としての喜びになるということですよね。第8の習慣と4DXが完全に一致した瞬間ですね。
山室本当にそういう感じです。介護業界も障害福祉もそうですが、弱者と決めつけているのはよくないですよね。誰かが常に支え続けないと生きていけない、自分が誰かを支える機会はもうなくなっていると決めつけているのです。常に支え続けないといけないということではなく、実は、お年寄りも他の人にはない長けた能力を持っています。活かす場面をいかに作るかです。障害などはまさしくそうで、ある部分ではハンデを追っているかもしれませんが、ある部分では秀でた能力を持っています。ですから、できるだけ活躍できる機会を作ってあげたいのです。いろいろな人に貢献をするということでもいい。誰かの役に立ちたいという心の部分を満足させるために、それを生きがいとして貢献するのも一つです。しかし、それ以外もあると思うのです。自分はもっと望む人生を生きたいという人もいるかもしれません。人によっては、頑張った分だけその対価として何かほしいという人たちもいます。いろいろな人たちが生きがいを持って生きていけるようにするためには、貢献欲求だけ満たせばいいというものではありません。みんな違うのです。お客様もどんどん多様性が進んでいるので、そこで期待に応えていくのが新しい介護、障害福祉の形になっていくのではないかと思っています。
竹村新しい介護の理想というものを、かけ声だけではなく具体的に落とし込んでいって、現場のところから変えていくにはどうしたらいいのか。「実行の4つの規律」のプロセスのなかで確実に行動に落とし込まれています。
制度としては、エマのように、施設の中に仕事があって、それをアプライして行うとポイントがつくのですよね。
山室そうです。ある看護師の免許を持っているお客様は、リハビリテーションサービスを利用しながら、他のお客様に対して血圧測定をしています。有資格者なのでもちろん違法ではありません。その方の目標は「また仕事に復帰したい」だそうです。今、イキイキしています。
その「生きがい支援」のWIGが「夢、希望の実現者を2020年までに40人にする」です。これがあるおかげで思い切った取り組みができます。スタッフもそこに向けて、「これはこういうことだよね」「もしかしたらこの方はこういうことまでできるんじゃない?」と、会話として出てきているのです。
これはスタッフがもともとやりたかったことなのですが、当然のごとく壁にもぶち当たります。竜巻の中にいながらそういうこともやるわけですから。それでもすごく楽しいのです。お客様自身が生きがいを持ってにこやかに暮らし、「こんなに楽しい暮らし初めて」といった話をいただいたら、竜巻は実は大きな存在ではありません。竜巻は竜巻としてあるけれども、こっちのほうが大切だと思う人間が増えていくのです。
竹村「7つの習慣」の時間管理のマトリックスでいえば、第Ⅰ領域と第Ⅱ領域の戦いですよね。第Ⅰ領域の中だけでも竜巻でいっぱいになっていると、第Ⅱ領域なんかにはいけないというようなことにもなります。この業界の良いところは、そういう想いを持って仕事に就いているので、やっていることは竜巻の中だったとしても、本質的にやりたいことはむしろそこにある。民間企業だと収益のような話になりますが、介護業界ではお客様の喜びという話になるので、そういったところを見ていくと、自分たちのモチベーションにつながる。「4つの規律」の仕組みとして、それをスコアボードで確実に確認することができる。
山室いいですよね。自分たちがやったことを振り返って「やったじゃん」と言えるわけですから、モチベーションも上がりますよね。
竹村はじめに作ったものはそれだけでもユニークなのに、今度はそれがいい循環となって、さらに新たな行動が生まれています。
山室良いシステムですね(笑)。
竹村まだ途中ですがこれからですね。
山室いろいろなことを話していくうえでも、共通の言語ができたというのがいいですね。全部のセクションでやるわけではありませんが、その中で、私たちのセクションはこうやりましょうと、責任を持ってやろうとしているのが見えます。