「実行の4つの規律」トップ対談|山室 淳様(社会福祉法人一燈会 理事長)
第3回 行動が変われば結果は変わる

ポジティブな方向に変化する

竹村キーワードは行動変容です。変わらなくてはいけないわけです。その行動変容の動機、方向性は大きく二つしかありません。一つは、ネガティブな方向性で、このままいったら自分たちはだめになってしまう、いわゆる危機感があるので変わらなければならないという方向性です。正直申し上げて大半の方はそんな感じです。もう一つの大きな方向性は、こちらはポジティブな方向性で、もっと大きなエネルギーを持って業界を変えていきたい、だから行動変容をしていきたい。そういうポジティブなエネルギーです。一燈会さんからは、ポジティブな方向性を感じました。

山室ネガティブな要素も当然のことながらありますが、ポジティブなほうが大きいと思います。このままでは業界自体がなくなってしまうのではないかという考え方ではなく、この業界を支えるために私たちがまずどうあるべきか、どういうことをしていかなくてはいけないのか考えています。

竹村「なんとかなくならないように」というより、「業界を変えるくらいの感じでいこう」というエネルギーが非常に強いですよね。将来的には、組織のなかでの行動変容だけではなく、業界的なイメージを変えたり、業界を変えていくところまでいければいいですよね。
また、この方向性の違いによって、同じ行動でもまったく異なるモチベーションとなったり、成果が大きく違ってくるはずです。

山室まさにそうです。自分の行動に意味を持つことが大切なのだと思います。一燈会全体でいうと、先ほど申し上げた、お客様がお客様の血圧を計るということもそうですし、掃除とか、雑巾を縫って近くの保育園や幼稚園、小学校、中学校に寄贈するといったこともそうなのですが、これらをありがちなパターンにしたくありませんでした。どういうことかというと、余った時間で雑巾を縫って寄付しましょうということはよくあるのですが、そうではなくて、そこの施設長が近くの小学校や保育園に行って、「雑巾がなくて困っているお子さんはいませんか?」という話をします。一人でもいたらそれを施設に持って帰ります。そして「小学校に行ったら困っているお子さんがいました。ぜひ力を貸してほしいのです」と言うと、イヤイヤではなく、「それはやってあげなきゃ」となります。これが生きがいとかやりがいにつながっていくわけです。同じことでも、やりがいと生きがいを見つけられるような環境を作ること、これが介護の業界の専門性なのではないでしょうか。これは仕事も一緒ですよね。イヤイヤやるよりも、そこに意味を持たせることで、やりたいというモチベーションが生まれます。

竹村ルーティンワークとしてこなすことが目的になってしまうと、「仕方なく行動する」ことになります。誰かのためにやることで貢献の気持ちが生まれ、目的意識がまったく変わります。

スポーツとの相乗効果を出していきたい

竹村これからどのようなことにチャレンジしたいとお考えですか。

山室スポーツと福祉をどうつなぐかということにもこれからチャレンジしていきたいと思っています。スポーツは大きな力と可能性を持っています。発汗作用と心拍数が上がるので、スポーツを見るだけでも健康に良いといわれています。お年寄りとスポーツをどうつなぐかを考えています。
これを高齢介護と障害福祉でもやろうとしています。例えば年に1回くらい、障害がある人たちや要介護の人たちを無料でスポーツ観戦に招待したり、地域に住む人たちみんなでスポーツを支える。逆にスポーツからエネルギー、パワーをもらう。そういうこともやろうとしています。
一度、障害者の人たちをサッカー観戦にお連れしました。15人くらい連れて行ったのですが、結果的に半分の方は残って、身を乗り出して応援していました。これをどう判断するかです。私はすごく良い成果だと思っています。
例えばそこで、目の前で活躍している選手が自分に声をかけてくれて、「家に帰ったらお父さんとお母さんの言うことを聞くんだぞ」と言ってもらって、帰宅後、家での生活態度が少しでも変わったら、これは一つの変化です。そういうことをやっていきたいのです。実際に、試合を見た翌日、その子たちがボールを蹴って遊んでいました。こんな光景は初めてです。スポーツに意欲を持って、やりたいと声を出してくれて、実際にやってみた。これは大きな成果だと思っています。

竹村私は今筑波大学の体育専門学群で教えていますが、リーダーシップを発揮するということそのものが理解されていないと感じることがあります。また、個人競技においても、コーチや同僚含めてチームが存在しています。チームがあるからこそパフォーマンスが出せるのだというところを、「7つの習慣」を鏡にしながら、自分がうまくできているところ、そうでないところを知ることで、パフォーマンスを上げていくこともできてきます。

山室スポーツ選手こそ学ぶべきだと思います。

竹村筑波大学でも実際に変化した事例はあります。「7つの習慣」を学んだあと、自分自身の経験をレポートとして提出していただくのですが、そのなかに、ある競技のオリンピック代表の女子学生がいました。今までの慣習で、自分のほうが強いのだけど、先輩に遠慮をしていた。しかし、チームでやっていくのに、本当のWin-Winの関係にならなくてはいけないと感じ、年齢に関係なく、自分がリーダーシップを発揮して自分から声をかけるようになった。「7つの習慣」を学んでこんなふうに変わってきました、そして成績も上がってきました、という話をしてくれました。それを聞いてイチローの言葉を思い出しました。自分は天才ではない。なぜなら、やっていることが全部説明できるからだ、と。よくいう名プレーヤーが名監督にならないというのも、けっきょく説明ができるかどうかです。それをゼロベースからきちんと積み上げている人は説明ができます。レポートにして書いてくれた学生たちも、みんな説明ができるわけです。「7つの習慣」のパラダイムがあって、それに基づいて自分はこんなふうにやった。それが共通言語だったり原則だったりする。それがあるので自分はこう考え、こうした、という説明ができる。説明ができる事柄が自分の中に落とし込まれていたら、それに基づいて別の分野でもそれができるはずです。

山室すごいですね。

竹村そうなんです。このレポートを全社員たちに読んでほしいくらいです。「7つの習慣」にはこんなに力があるのです。ただし、スポーツの中で学んできたリーダーシップというものが、それがスポーツでなくなったとたんに発揮できなくなってしまう人もいます。きっとそこには原則的なものがあって、その原則がきちんと頭の中で整理されたら、それに基づいて全然違った分野でもリーダーシップを発揮できるにもかかわらず、そこが紐付けができていない。

「とにかくやってみる」から始める

山室他の分野に落とし込みができる人と落とし込みができない人、この差は何ですか。

竹村けっきょく、パラダイム、思考、行動、結果と進んでいくものなのに、手っ取り早く何をやったら結果が出るのかと、いわゆる行動レベルで捉えようとすると、単発的な成果になったり、一時の結果、成果で、そこから応用が利きません。パラダイムは何をやっても共通です。時間管理のマトリックス一つとっても、個人でも使えるし、組織でも使えるし、エグゼクティブでも使えるし、小学校の子どもたちだって使えて、第Ⅱ領域が大切だとわかる。ここは応用が利くところなのです。そうではなくて第Ⅱ領域の活動を、具体的に行動としてどうするのかというレベル感で捉えてしまうと、それは単発、限定的な成果にしかならないですよね。

山室でも、そういう人たちはすごく多いです。パラダイムから思考と行動変容があって結果につながっていくという循環モデルの話を聞けばほとんどの人が理解します。ですが、大半の人たちは、頭ではわかっているのだけど実際にそれを他のことに落とし込めずに、同じことの繰り返し、同じ失敗をし続けてしまう。何で自分ばっかりという人が、いかにこの世の中に多いかと思ってしまいます。

竹村わかります。そこで鍵になってくるのが行動変容なのです。例えば、研修でも、行動レベル、思考レベルでしか捉えない人がいます。実際の現場に持っていったら、毎日の生活の中に竜巻があって、けっきょくはそこで行動変容できないということになってしまう。パラダイム・シフトしてやっていこうというのが一番の理想なのですが、パラダイムが変わった瞬間の賞味期限はそんなに長くありません。本を読んだときの感動もそうです。しかし、その賞味期限が切れて学習の効果が切れたとしても、パラダイムを変えていくためには、パラダイムが変わらなければやらないということではなく、それが過ぎ去った後でも、じゃあこう行動しよう、1個これを変えてみようとやってみれば、違った行動をするので違った結果が得られるわけです。違った結果を得たら、やっぱりこれでよかったのだとパラダイムに影響を及ぼしていく。だからパラダイムのところからスタートするのか、行動からスタートするのか、いずれにせよ鍵を握っているのは「何かを変える」ということです。

山室パラダイムを変えて行動変容を起こすのはすごく難しいと思うのです。なぜなら、眼鏡をかけられないからそうなってしまっているわけじゃないですか。おっしゃるように、行動変容から始めるほうが大半の人たちはすっと入るのではないかなと。

竹村正直申し上げて、「実行の4つの規律」においても、全員が「なるほど、これは素晴らしい」とパラダイムから入らなかったとしても、「竜巻の中でいつもこんなに忙しくて」でもいいので、とにかくやってみようということです。

山室現場でも「やらなきゃいけないのでやります」と言っていました。しかし、そこからその大切さに気づき、お客様目線で変わっていく。おっしゃるとおりです。

竹村そうなんです。行動が変われば結果が違うので、「これってもしかして」という理解からパラダイムに影響を及ぼしていく。そういったことが一つの成功体験になります。

山室今日はすごく勉強になりました。そういうことですよね。

竹村パラダイム・シフトが起きている人とそうではない人でタイムラグはあると思います。行動変容というものを自ら主体的にやっていくのか、あるいは強制的にやらされるのか。いずれにせよ結果は同じなのです。

山室そのうちに、それが自分たちにとって大切なものだと認識させる、いわゆる腹落ち感をさせてくれるのが、リーダーに必要なものですよね。

竹村もちろんです。適切な先行指標というものがあって、それをやるということで実は自分たちもWin-Winになるということをきちんと認識できて、リーダーたちがそこに導いていくということが鍵になると思います。

山室面白い。すごく勉強になりました。